自損事故を起こしたら?補償内容や適用対象外の損害について解説

自動車事故には、必ずしも相手がいるとは限りません。中には自損事故、いわゆる“単独事故”を起こすこともあるでしょう。

事故の相手がいる場合、保険を使って補償を賄うのは想像がつきそうですが、自損事故の場合は保険が使えるのか?と疑問に思う人も多いかもしれません。

結論から申し上げると、自損事故であっても任意保険が適用となる可能性は十分にあります。

今回は自損事故を起こした時に使える「自損事故保険」を中心に、補償内容や適用対象外となる損害の特徴について詳しく解説します。

自損事故保険とは?

自損事故で使える保険として一般的なのは「自損事故保険」です。

自損事故保険では、相手がいない交通事故(いわゆる単独事故)で生じた人身傷害を補償してくれます。

補償の対象となるのは、運転者と同乗者、契約車両の所有者です。

「人身傷害」なので、ケガや死亡・後遺障害といった“人”に対する補償として、あらかじめ決められた金額を上限に保険金を受け取ることができます。

自損事故保険は保険料の負担なしで、任意保険の「対人賠償責任」がある保険契約に自動付帯されるのが一般的です。

自損事故保険の補償内容

すべての自損事故が自損事故保険でカバーされると思われがちですが、実はそうとも限りません。ここで自損事故保険の補償内容について、詳しく見ていきましょう。

自損事故保険が適用となる事故

自損事故保険が適用となる事故について解説します。

まず事故の条件として、以下のいずれかを満たす必要があります。

①契約時に特定した自動車(以下「被保険自動車」といいます。)の運行に起因する事故

②被保険自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の他物との衝突、火災、爆発または被保険自動車の落下(ただし、被保険者が被保険自動車の正規の乗車装置またはその装置のある室内に搭乗中である場合に限ります。)
引用:日本損害保険協会|「自損事故保険はどのような保険ですか?」より

①は単純に、保険契約のある車の運行中による事故を指しています。

運転操作を誤って電柱やガードレールなどに衝突してしまった場合、こちらの条件に当てはまります。

②は走行中、飛び石により車体に傷がついたり、崖に落下したりといったケースが挙げられます。

さらに、以下に挙げる3つの要件をすべて満たす必要があります。

①急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を負った場合

②自賠法第3条「ただし書き」に定められている内容(注1)に基づく損害賠償請求権が発生しない場合(注2)

③人身傷害保険から保険金が支払われない場合(注3)
引用:日本損害保険協会|「自損事故保険はどのような保険ですか?」より

定義が難しい内容もありますが、簡単にまとめると、

  1. 偶然に起きた事故であること(故意ではない)
  2. 他人に傷害を与えていないこと
  3. 人身傷害保険から保険金が支払われないこと

この3つがすべて満たされた事故の場合にしか、自損事故保険を使うことができません。

特に「人身傷害保険から保険金が支払われない場合」に当てはまるかどうかがカギとなるでしょう。

自賠責保険よりも人身傷害保険の方が幅広く補償されるため、基本的には自損事故であっても人身傷害保険から保険金を受け取れます。

自損事故保険を適用とするか、人身傷害保険を適用とするかの判断は保険会社ごとに異なるため、補償内容を把握することが大切です。

▶人身傷害補償特約の保険料などについて知りたい方はこちら

自損事故保険の保険金額

自損事故保険の保険金額は保険会社によって異なるケースもありますが、以下に挙げる金額が一般的です。

保険金支払事由 保険金額
死亡の場合 1,500万円(一律)
後遺障害の場合 障害の程度により50万~2,000万円
介護状態の場合 200万円(一律)
ケガの場合 通院 4,000円/日
入院 6,000円/日

 

自損事故保険の補償範囲

自損事故保険の補償範囲は以下のとおりです。

  • 記名被保険者(車の所有者)
  • 被保険自動車の運転者
  • 被保険自動車の同乗者

基本的には事故発生当時、車に乗車していた人(自分自身を含む)が補償の対象となると考えて良いでしょう。

補償されないケース

自損事故保険の適用外となる事故は、以下のケースです。

  • 被保険者の故意により発生した損害
  • 被保険者の自殺行為・闘争行為・犯罪行為によって生じた損害
  • 被保険者が無免許運転・飲酒運転・薬物乱用など正常な運転ができない状態で生じた損害
  • 地震、噴火またはこれらにより生じた津波に起因する損害
  • 戦争、外国の武力行使、暴動、核燃料物質などに起因する損害
  • レース・ラリーなどの競技または曲技に使用する目的で生じた損害(練習やそれらを行う場所で起きた損害も含む)

参考:日本損害保険協会|「自損事故保険はどのような保険ですか?」より

運転者の故意による事故や、重大な過失のもとに発生した事故は、当然ながら補償の適用対象外となります。

自損事故で使える保険・使えない保険

自損事故により「自損事故保険」が使えるケースは非常に少ないことを前項で解説しました。では、よくある自損事故で使える保険は何になるのでしょうか。

「人身傷害の場合」と「物損の場合」に分けて、自損事故で使える保険・使えない保険について、詳しく見ていきましょう。

人身傷害の場合

自損事故により生じた「人身傷害(ケガや死亡・後遺障害)」の場合に使える保険の種類は以下のとおりです。

  • 人身傷害保険
  • 搭乗者傷害保険
  • 自損事故保険
  • (自分以外の同乗者のみ)自賠責保険

自損事故なので、人に対する損害賠償請求権は基本的に発生しません。そのため「対人賠償責任保険」は、自損事故では使えない保険になっています。

自損事故で一番に想定される補償は「人身傷害保険」と「搭乗者傷害保険」の2種類です。

自分以外に乗車していた人が負傷した場合、自賠責保険から保険金が請求できます。(任意保険会社が手続きを行ってくれるのが一般的です)

万が一、人身傷害保険の補償対象外であっても、自損事故保険の適用が受けられる事故であれば自損事故保険が請求可能です。

なお、「人身傷害」と「搭乗者傷害」は両方から保険金が受け取れますが、「人身傷害」と「自損事故保険」の保険金はいずれかしか受け取れません。

▶搭乗者傷害保険の保険料・保険金についてはこちら

物損の場合

続いて、物損の場合に使える保険について見ていきましょう。

  • 車両保険
    (自損事故を補償する契約がある場合のみ)
  • 対物賠償責任保険
    (自損事故によりガードレールや電柱などの公共物や他人のモノを壊した場合)

自損事故保険は「人身傷害」しか補償されないため、物損には使えません。

自損事故で考えられる物損は「自分の車」または「衝突物」のいずれかとなるでしょう。

自分の車の修理費用を補償するのは「車両保険」ですが、電柱のような公共物などを損傷した場合には「対物賠償責任保険」を使う必要があります。

また自損事故の場合、必ずしも車両保険の補償が使えるとは限らない点に注意が必要です。

車両保険の補償範囲は大きく2種類に分かれており、契約内容によっては自損事故時の補償が受けられないケースもあります。

自損事故であっても自分の車に対する補償を受けるためには、自損事故保険の有無だけでなく、車両保険の補償も確認するのがおすすめです。

自損事故でも使える車両保険の補償内容

車両保険には「一般型」と「エコノミー型」の2種類があります。

自損事故であっても車両保険の適用を受けるためには、「一般型」の補償にしましょう。

一般型であれば、自損事故であっても補償を受けることができます。

■主な事故例

  • 運転操作を誤って電柱やガードレールに衝突した
  • カーブを曲がり切れずに崖から転落した
  • 自宅の車庫で車をこすった

▶車両保険の補償・保険料についてはこちら

自損事故発生~保険申請手続きまでの流れ

自損事故を起こしてしまったとき、どのような対応をすれば良いのでしょうか。

事故時の対応次第では保険請求ができなくなる恐れもあるため、冷静に適切な対応をとることが大切です。

1.負傷者がいれば救急(#119)に通報

交通事故発生時のルールであり、ドライバーの義務です。ドライバーは負傷者の救護を第一にしなければなりませんので、同乗者の中に負傷した人がいればすぐに救急に連絡しましょう。

2.事故の発生を警察(#110)に通報

次に事故の発生を警察に通報します。たとえ自損事故であっても警察への通報は必須です。

保険の申請に必要な「交通事故証明書」の発行も事故発生時にした方が、その後の手続きがスムーズになります。

3.保険会社に連絡

事故発生時点で保険を使うかどうか分からないといった状況であっても、まずは保険会社に相談するのがおすすめです。保険金が支払われる事故にあたるのか、どの種類の保険金が受け取れるのかなどを聞くことができます。

4.ケガの治療開始

事故の衝撃により負傷した場合、病院の受診をおすすめします。同乗者はもちろん、自分自身もしっかり受診することが大切です。ケガをしても病院を受診しなければ、保険金の請求はできません。

また「事故当時は目立った外傷が見られなかったが、数日後に不調を感じ慌てて病院を受診した」といったケースでは、事故との因果関係が曖昧になり保険金を請求できる可能性が低くなってしまいます。

5.必要書類を準備・保険申請

保険金申請に必要な書類を準備して保険金の請求を行います。

自損事故の場合、主に「診断書」や「事故証明書」といった書類が必要です。

使用する保険が「人身傷害保険」か「自損事故保険」かによっても必要書類が異なります。

保険会社の指示に従って書類を準備し、郵送しましょう。

人身傷害保険が適用となるか、自損事故保険が適用となるかは、保険契約の約款に基づき保険会社側が判断します。

人身傷害保険の補償範囲の方が広いものの、適用外の事故の場合は自損事故保険が重宝するでしょう。

保険会社によって補償内容が異なるため、対応も変わるかもしれません。

契約前には補償内容をしっかりと確認しましょう。

▶自動車事故を起こしてしまった時の請求手続きの流れについてはこちら

自損事故で保険を使ったら等級はどうなる?

一般的に自動車事故で保険を使うと等級が下がるため、翌年以降の保険料が高くなってしまいます。

自損事故であっても保険を使ったら等級に響くのでしょうか。

以下、具体的に見ていきましょう。

保険の種類 等級
人身傷害保険 ノーカウント事故
搭乗者傷害保険 ノーカウント事故
自損事故保険 3等級ダウン
車両保険 3等級ダウン

自損事故保険を使用すると、3等級下がります。

もし人身傷害が適用されず自損事故保険の補償の対象となった場合、軽症であれば保険を使わないのもひとつの手でしょう。

3等級ダウンになると等級ダウンに加え、3年間事故ありの等級が適用されるため、保険料が割高になる期間が長くなるといったデメリットが挙げられます。

人身傷害保険が使える自損事故であれば保険を使っても等級には響きませんので、積極的に補償を活用するのがおすすめです。

▶等級による保険料の決まり方・上げ方はこちら

まとめ:加入中の自動車保険の補償内容を確認しよう

自損事故保険は、一般的に任意の自動車保険契約に無料で自動付帯される保険です。

自損事故保険を使用するケースは多くないため、あまり重要視される補償ではありませんが、いざというときに備えて加入中の保険の補償内容を把握しておくことをおすすめします。

中には、人身傷害保険を契約しない場合に自動付帯されたり、自損事故保険を付帯するかどうかを選べたりといった保険商品も存在します。

場合によっては「入っていたつもりだったけど補償の対象になっていなかった」なんてことも考えられるかもしれません。

人任せにせず、自分自身で補償内容を確認し、自動車事故の“万が一”にしっかりと備えましょう。

無保険車傷害保険とは?必要性と人身傷害保険との違いを解説

任意の自動車保険の補償内容の中には、よく知られていないような補償もあります。

しかし保険契約をする以上、ひとつずつ「どんなときに補償が受けられるのか」といった内容を把握しておきたいものです。

今回は、任意保険の中でもあまり重要視されにくい「無保険車傷害保険」について解説します。

どのような補償なのか?必要性はあるのか?また、「人身傷害保険」との違いについて確認していきましょう。

無保険車傷害保険とは

無保険車傷害保険とは、主に自動車事故の加害者が自賠責保険や任意の自動車保険に未加入だった場合に、自分や同乗者への補償として利用できる保険です。

被害者となった人が死亡または後遺障害を被った場合のみ、補償が受けられます。

一般的に死亡や後遺障害状態といった、これまで通りの生活ができなくなるほどの傷害を負わせた場合、加害者は高額な損害賠償金を負担する必要があるでしょう。

しかし加害者に賠償能力がなければ、被害者は十分な損害賠償が受けられず、泣き寝入り状態となってしまいます。無保険車傷害保険は、そんな事態を避けるためにつくられた補償です。

また、車対車の事故に限らず、“歩行中に衝突してきた車が無保険だった”といったケースも補償の対象となっています。

“無保険車”とはどんな車のこと?

無保険車の定義は、単純に「保険に加入していない車」だけでなく、加害者側に「十分な賠償能力がない」といった条件があてはまります。

具体的なケースは、以下の通りです。

  • 任意の自動車保険に加入していないケース
  • 自賠責保険に加入していないケース(契約不備や期限切れを含む)
  • 保険に加入しているが条件違反など保険金支払いが認められないケース
  • 契約している保険金額の設定が低く、賠償金が賄えないケース
  • ひき逃げや当て逃げなど、加害者が特定できないケース

「保険契約はあるものの補償が著しく低い」「契約時の告知義務違反により保険金の支払いが認められない」「ひき逃げなど加害者が特定できない」といったケースも補償の対象となります。

人身傷害保険との違いは?

相手方ではなく、自分や家族のケガや死亡・後遺障害への補償として備える「人身傷害保険」

事故の相手が無保険車のケースであっても、自分の保険を使って補償を受けることはもちろん可能です。

人身傷害保険を使えば、自分や家族が被ったケガが後遺障害認定されなかったとしても、最低限の補償は受けることができます。

しかし人身傷害保険の基準は、各保険会社の約款に基づくものであり、本来、加害者側から請求できるはずの「対人賠償」の基準に比べると低くなってしまうといった欠点があります。

また一般的に人身傷害保険の保険金額を無制限に設定する人は少なく、万が一重度の後遺障害が残ってしまったケースなど、人身傷害保険だけでは十分な補償が受けられないことも考えられます。

▶人身傷害補償特約の保険料・補償についてはこちら

無保険車傷害保険の補償内容

続いて、無保険車傷害保険の補償内容について詳しく見ていきましょう。

無保険車傷害保険の被保険者

まずは無保険車傷害保険の適用が受けられる“被保険者”となる人物について解説します。

  • 記名被保険者
  • 記名被保険者の配偶者
  • 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族
  • 記名被保険者またはその配偶者の別居の子(婚姻歴のある方を除く)
  • 被保険自動車に乗車中の者

一般的に補償範囲に含まれる“家族”は補償の対象です。

それ以外に、被保険自動車に乗車中に起きた事故のみ、家族以外の搭乗者であっても補償の対象となります。

(例:被保険者と歩行中に無保険車に衝突されたケースは、他人のみ補償の対象外)

▶任意保険の記名被保険者についてはこちら

支払われる保険金は?

無保険車傷害保険から支払われる保険金の限度額や条件は、以下の通りです。

支払い要件
死亡または後遺障害の場合のみ
支払い限度額
2億円または無制限
※保険会社によって異なる
利用条件
・相手の車が無保険車に該当する場合
・人身傷害保険や自賠責保険から受け取れる保険金以上の損害を被った場合
支払い基準
通常相手方から受け取る対人賠償の基準
※人身傷害の基準とは異なる

 

保険金が支払われないケース

事故の相手が無保険車であっても、無保険車傷害保険から保険金が支払われないケースは以下の通りです。

  • 契約者または被保険者の故意により発生した損害
  • 被保険者の自殺行為・闘争行為・犯罪行為によって生じた損害
  • 被保険者が無免許運転・飲酒運転・薬物乱用など正常な運転ができない状態で生じた損害
  • 地震、噴火またはこれらにより生じた津波に起因する損害
  • 戦争、外国の武力行使、暴動、核燃料物質などに起因する損害
  • レース・ラリーなどの競技または曲技に使用する目的で生じた損害(練習やそれらを行う場所で起きた損害も含む)

無保険車傷害保険は“自分側に対する補償”にあたるので、違反運転によって生じた事故は補償の対象外となります。

また、親族間で起きた事故は免責事由にあたり、無保険車傷害保険からの保険金は受け取れません。

無保険車傷害保険の保険金額

ここでは、無保険車傷害保険の保険金額を紹介します。

主な保険商品をピックアップしたので、ぜひ比較の際の参考にしてください。

保険会社 商品名 無保険車傷害自動セット 保険金額
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 タフ・クルマの保険 2億円
AIG損害保険株式会社 AAP(家庭用総合自動車保険)  2億円
共栄火災海上保険株式会社 KAPくるまる 2億円
セコム損害保険株式会社 セコム安心マイカー保険 無制限
損害保険ジャパン株式会社 個人用自動車保険「THE クルマの保険」 無制限
東京海上日動火災保険株式会社 トータルアシスト自動車保険(総合自動車保険) 2億円
日新火災海上保険株式会社 ユーサイド(新総合自動車保険) 対人賠償と同額
三井住友海上火災保険株式会社 GK クルマの保険 2億円
アクサ損害保険株式会社 アクサダイレクトの自動車保険 2億円
イーデザイン損害保険株式会社 自動車保険 2億円
au損害保険株式会社 au自動車ほけん 2億円
SBI損害保険株式会社 SBI損保の自動車保険(個人総合自動車保険) 無制限
セゾン自動車火災保険株式会社 おとなの自動車保険(セゾン自動車保険) 無制限
ソニー損害保険株式会社 自動車保険 無制限
三井ダイレクト損害保険株式会社 総合自動車保険 無制限

※2023年1月1日以降契約の場合

楽天損害保険株式会社 ドライブアシスト 保険金額を限度に補償
チューリッヒ保険会社 スーパー自動車保険 無制限

2022年11月現在、ほとんどの保険商品に無保険車傷害保険が自動付帯されています。

保険金額は、被保険者1名につき「2億円」または「無制限」のケースが多く見られます。

また無保険車傷害保険は、「対人賠償保険」または「人身傷害保険」のいずれかに付帯する特約です。人身傷害を契約しない保険では、無保険車傷害保険が自動付帯となる場合と、希望により付帯できる場合の2種類が挙げられます。

どちらに特約が付帯するのかは保険会社によって異なるため、契約前に補償内容を確認しておきましょう。

事故の相手が無保険だったときの補償

自動車事故を起こした相手(加害者)が無保険状態であった場合でも、国の被害者救済制度を利用して補償を受けることができます。

しかし国の補償制度では人身傷害、つまりケガや死亡・後遺障害といった「人」に対する損害賠償しか補償されない点が大きな特徴です。以下、詳しく見ていきましょう。

1.まずは相手方の自賠責保険に請求する

任意保険には未加入であっても、自賠責保険に加入せず運転しているといったケースはかなり稀でしょう。第一に相手方の自賠責保険から損害賠償を請求できることが考えられます。

国の補償制度である自賠責保険は、ケガや死亡・後遺障害といった「人身傷害」は補償されますが、車の修理費のような「物損」に関しては補償が受けられません。

また、自賠責保険には補償の限度額が設定されている点にも注意が必要です。

  • ケガ・・・120万円まで
  • 死亡・・・3,000万円まで
  • 所定の後遺障害・・・4,000万円まで

限度額以上の損害を被っても、相手が任意保険にて十分な補償を備えていなければ、その分の損害賠償金は受け取れないことが考えられます。

そうしたケースにおいて、無保険車傷害保険を活用することができます。

▶自賠責保険の補償内容や保険金についてはこちら

2.(自賠責にも未加入の場合)政府の保障事業に請求する

車検切れの車など、加害者側が自賠責保険にすら未加入であるケースもないとは言い切れません。その場合は、被害者側から国の保障事業に損害賠償を請求することができます。

請求の手順は以下の通りです。

  1. 損害保険会社の窓口にて「請求キット」を入手する
  2. 請求書類を作成し、損害保険会社に提出する
  3. 「損害保険料率機構」にて調査
  4. 「国土交通省」にて審査・決定
  5. 損害保険会社から保険金が支払われる
    ※参考:損害保険料率機構「政府の保障事業とは」より

損害賠償の支払い基準は自賠責保険と同等になるため、物損は補償されない上、人身傷害も高額賠償には対応していません。

また国から被害者に支払われた損害賠償金は、最終的に国から加害者へと請求されるため、“自賠責保険に加入しなくてもよい”ということには決してならない点に注意しましょう。

3.加入中の任意保険の補償を利用する

最後に頼れるのが、自らが加入している自動車の任意保険です。

任意保険の補償の中で、自分側に生じた被害に対して補償が受けられるのは、以下の特約です。

ケガや死亡・後遺障害 ・人身傷害保険
・搭乗者傷害保険
車の損害 車両保険

上記の補償を備えていれば、人身傷害・物損(車)問わず、実際の損害額に対して保険金が受け取れます。

ただし、一般的に加害者側から受け取れる「対人・対物賠償」の支払い基準ではなく、保険会社独自に設けられた基準までしか補償が受けられません。

いずれも「任意保険基準」であることに変わりはありませんが、相手方から受け取れる損害賠償の認定基準と、自分側に対して支払われる損害額の認定基準は異なる場合があります。

そのため人身傷害や搭乗者傷害の補償のみの場合、本来よりも受け取れる保険金が少なくなる可能性が考えられるでしょう。

▶搭乗者傷害保険の保険料・補償についてはこちら

▶車両保険の保険料・補償についてはこちら

無保険車傷害保険は必要か?事故後の流れ

現状、ほとんどの自動車保険商品に自動付帯されている「無保険車傷害保険」ですが、実際にこの特約を利用する場面はあるのでしょうか。

ここでは無保険車と事故を起こしてケガをした場合の、事故後の流れを見ていきましょう。

1.ケガの治療開始

無保険車傷害保険を受け取るには後遺障害認定を受ける必要があります。

後遺障害認定を受けるには、一定期間の通院が必要です。

【治療期間中に請求可能な保険金】

  • 搭乗者傷害保険
  • 人身傷害保険
  • 自賠責保険
    ※相手方が加入している場合

2.後遺障害認定を受け、無保険車傷害保険を請求

症状固定の診断を受け後遺障害が認定されたら、いよいよ無保険車傷害保険への請求が可能となります。

加入中の保険会社へ問い合わせ、手続きを進めていきましょう。

無保険車傷害保険を使うかどうかは、後遺障害認定が下りたあと決定する必要があります。

重度の後遺障害が残った場合は、人身傷害の基準以上の保険金を受け取れる可能性があるため、無保険車傷害保険を利用した方が良いでしょう。

無保険車傷害保険の注意点

無保険車傷害保険を利用する場合であっても、こちら側が無過失の事故だと保険会社は一切介入できないといった点に注意が必要です。

法律上の規定により、こちら側に過失のない事故の場合、第三者である保険会社は被害者に代わって相手側との示談交渉ができないといったきまりがあります。「無保険車傷害保険が使える」といったアドバイスも、場合によってはもらえないかもしれません。

もらい事故で、お客さまに事故の責任(過失)がない場合は、弁護士法(第72条 非弁活動の禁止)により、保険会社がお客さまに代わり示談交渉をすることができません。
引用:おとなの自動車保険|当社が示談交渉を行うことができない場合

無保険車傷害保険の保険金請求時も、保険会社が加害者とのやりとりをすることはできません。そのため、そもそも加害者が本当に無保険なのかの証明が必要になるなど、手続きがややこしいといった欠点が挙げられます。

もらい事故かつ加害者が無保険のケースでは、交通事故解決に強い弁護士に相談すると安心です。

とはいえ弁護士費用は高額になるケースもあるため、自動車保険の「弁護士費用特約」をあわせて付帯しておくことをおすすめします。

無保険車の割合はどのぐらい?

2021年3月末時点の統計では、対人賠償に加入している車両が全体の「75.1%」、対物賠償に加入している車両は全体の「75.3%」という結果になっています。

自家用車のみで算出してみても、任意保険の加入率は全体の約8割程度となっており、およそ5台に1台は無保険であることが分かります。

こうした実態を客観的に見ると、万が一の備えは必須だということが言えるのではないでしょうか。

※数値参照:損害保険料率機構|2021年度自動車保険の概況より
「自家用普通乗用車」「自家用小型乗用車」「軽四輪乗用車」の保有車両数の合計(61,706,303台)と対人賠償の付保台数の合計(49,202,869台)の割合を算出した結果

まとめ:無保険車傷害保険も忘れずに加入しよう

無保険車傷害保険は、基本的な自動車保険の契約に自動セットされる補償です。まれにオプションとなるケースもあるため、契約前に見落とさず確認することが大切だと言えるでしょう。

無保険車傷害保険を利用する事故の中には、もらい事故のため保険会社が示談交渉を行えないケースも存在します。

いざというときに迷わず弁護士に相談できるよう、「弁護士費用特約」を付帯しておくと安心でしょう。

“5台に1台は任意の自動車保険に未加入”といった実態も踏まえ、自分が加入している保険は万が一に備えられているかどうか、いま一度見直してみませんか?