自損事故を起こしたら?補償内容や適用対象外の損害について解説

自動車事故には、必ずしも相手がいるとは限りません。中には自損事故、いわゆる“単独事故”を起こすこともあるでしょう。

事故の相手がいる場合、保険を使って補償を賄うのは想像がつきそうですが、自損事故の場合は保険が使えるのか?と疑問に思う人も多いかもしれません。

結論から申し上げると、自損事故であっても任意保険が適用となる可能性は十分にあります。

今回は自損事故を起こした時に使える「自損事故保険」を中心に、補償内容や適用対象外となる損害の特徴について詳しく解説します。

自損事故保険とは?

自損事故で使える保険として一般的なのは「自損事故保険」です。

自損事故保険では、相手がいない交通事故(いわゆる単独事故)で生じた人身傷害を補償してくれます。

補償の対象となるのは、運転者と同乗者、契約車両の所有者です。

「人身傷害」なので、ケガや死亡・後遺障害といった“人”に対する補償として、あらかじめ決められた金額を上限に保険金を受け取ることができます。

自損事故保険は保険料の負担なしで、任意保険の「対人賠償責任」がある保険契約に自動付帯されるのが一般的です。

自損事故保険の補償内容

すべての自損事故が自損事故保険でカバーされると思われがちですが、実はそうとも限りません。ここで自損事故保険の補償内容について、詳しく見ていきましょう。

自損事故保険が適用となる事故

自損事故保険が適用となる事故について解説します。

まず事故の条件として、以下のいずれかを満たす必要があります。

①契約時に特定した自動車(以下「被保険自動車」といいます。)の運行に起因する事故

②被保険自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の他物との衝突、火災、爆発または被保険自動車の落下(ただし、被保険者が被保険自動車の正規の乗車装置またはその装置のある室内に搭乗中である場合に限ります。)
引用:日本損害保険協会|「自損事故保険はどのような保険ですか?」より

①は単純に、保険契約のある車の運行中による事故を指しています。

運転操作を誤って電柱やガードレールなどに衝突してしまった場合、こちらの条件に当てはまります。

②は走行中、飛び石により車体に傷がついたり、崖に落下したりといったケースが挙げられます。

さらに、以下に挙げる3つの要件をすべて満たす必要があります。

①急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を負った場合

②自賠法第3条「ただし書き」に定められている内容(注1)に基づく損害賠償請求権が発生しない場合(注2)

③人身傷害保険から保険金が支払われない場合(注3)
引用:日本損害保険協会|「自損事故保険はどのような保険ですか?」より

定義が難しい内容もありますが、簡単にまとめると、

  1. 偶然に起きた事故であること(故意ではない)
  2. 他人に傷害を与えていないこと
  3. 人身傷害保険から保険金が支払われないこと

この3つがすべて満たされた事故の場合にしか、自損事故保険を使うことができません。

特に「人身傷害保険から保険金が支払われない場合」に当てはまるかどうかがカギとなるでしょう。

自賠責保険よりも人身傷害保険の方が幅広く補償されるため、基本的には自損事故であっても人身傷害保険から保険金を受け取れます。

自損事故保険を適用とするか、人身傷害保険を適用とするかの判断は保険会社ごとに異なるため、補償内容を把握することが大切です。

▶人身傷害補償特約の保険料などについて知りたい方はこちら

自損事故保険の保険金額

自損事故保険の保険金額は保険会社によって異なるケースもありますが、以下に挙げる金額が一般的です。

保険金支払事由 保険金額
死亡の場合 1,500万円(一律)
後遺障害の場合 障害の程度により50万~2,000万円
介護状態の場合 200万円(一律)
ケガの場合 通院 4,000円/日
入院 6,000円/日

 

自損事故保険の補償範囲

自損事故保険の補償範囲は以下のとおりです。

  • 記名被保険者(車の所有者)
  • 被保険自動車の運転者
  • 被保険自動車の同乗者

基本的には事故発生当時、車に乗車していた人(自分自身を含む)が補償の対象となると考えて良いでしょう。

補償されないケース

自損事故保険の適用外となる事故は、以下のケースです。

  • 被保険者の故意により発生した損害
  • 被保険者の自殺行為・闘争行為・犯罪行為によって生じた損害
  • 被保険者が無免許運転・飲酒運転・薬物乱用など正常な運転ができない状態で生じた損害
  • 地震、噴火またはこれらにより生じた津波に起因する損害
  • 戦争、外国の武力行使、暴動、核燃料物質などに起因する損害
  • レース・ラリーなどの競技または曲技に使用する目的で生じた損害(練習やそれらを行う場所で起きた損害も含む)

参考:日本損害保険協会|「自損事故保険はどのような保険ですか?」より

運転者の故意による事故や、重大な過失のもとに発生した事故は、当然ながら補償の適用対象外となります。

自損事故で使える保険・使えない保険

自損事故により「自損事故保険」が使えるケースは非常に少ないことを前項で解説しました。では、よくある自損事故で使える保険は何になるのでしょうか。

「人身傷害の場合」と「物損の場合」に分けて、自損事故で使える保険・使えない保険について、詳しく見ていきましょう。

人身傷害の場合

自損事故により生じた「人身傷害(ケガや死亡・後遺障害)」の場合に使える保険の種類は以下のとおりです。

  • 人身傷害保険
  • 搭乗者傷害保険
  • 自損事故保険
  • (自分以外の同乗者のみ)自賠責保険

自損事故なので、人に対する損害賠償請求権は基本的に発生しません。そのため「対人賠償責任保険」は、自損事故では使えない保険になっています。

自損事故で一番に想定される補償は「人身傷害保険」と「搭乗者傷害保険」の2種類です。

自分以外に乗車していた人が負傷した場合、自賠責保険から保険金が請求できます。(任意保険会社が手続きを行ってくれるのが一般的です)

万が一、人身傷害保険の補償対象外であっても、自損事故保険の適用が受けられる事故であれば自損事故保険が請求可能です。

なお、「人身傷害」と「搭乗者傷害」は両方から保険金が受け取れますが、「人身傷害」と「自損事故保険」の保険金はいずれかしか受け取れません。

▶搭乗者傷害保険の保険料・保険金についてはこちら

物損の場合

続いて、物損の場合に使える保険について見ていきましょう。

  • 車両保険
    (自損事故を補償する契約がある場合のみ)
  • 対物賠償責任保険
    (自損事故によりガードレールや電柱などの公共物や他人のモノを壊した場合)

自損事故保険は「人身傷害」しか補償されないため、物損には使えません。

自損事故で考えられる物損は「自分の車」または「衝突物」のいずれかとなるでしょう。

自分の車の修理費用を補償するのは「車両保険」ですが、電柱のような公共物などを損傷した場合には「対物賠償責任保険」を使う必要があります。

また自損事故の場合、必ずしも車両保険の補償が使えるとは限らない点に注意が必要です。

車両保険の補償範囲は大きく2種類に分かれており、契約内容によっては自損事故時の補償が受けられないケースもあります。

自損事故であっても自分の車に対する補償を受けるためには、自損事故保険の有無だけでなく、車両保険の補償も確認するのがおすすめです。

自損事故でも使える車両保険の補償内容

車両保険には「一般型」と「エコノミー型」の2種類があります。

自損事故であっても車両保険の適用を受けるためには、「一般型」の補償にしましょう。

一般型であれば、自損事故であっても補償を受けることができます。

■主な事故例

  • 運転操作を誤って電柱やガードレールに衝突した
  • カーブを曲がり切れずに崖から転落した
  • 自宅の車庫で車をこすった

▶車両保険の補償・保険料についてはこちら

自損事故発生~保険申請手続きまでの流れ

自損事故を起こしてしまったとき、どのような対応をすれば良いのでしょうか。

事故時の対応次第では保険請求ができなくなる恐れもあるため、冷静に適切な対応をとることが大切です。

1.負傷者がいれば救急(#119)に通報

交通事故発生時のルールであり、ドライバーの義務です。ドライバーは負傷者の救護を第一にしなければなりませんので、同乗者の中に負傷した人がいればすぐに救急に連絡しましょう。

2.事故の発生を警察(#110)に通報

次に事故の発生を警察に通報します。たとえ自損事故であっても警察への通報は必須です。

保険の申請に必要な「交通事故証明書」の発行も事故発生時にした方が、その後の手続きがスムーズになります。

3.保険会社に連絡

事故発生時点で保険を使うかどうか分からないといった状況であっても、まずは保険会社に相談するのがおすすめです。保険金が支払われる事故にあたるのか、どの種類の保険金が受け取れるのかなどを聞くことができます。

4.ケガの治療開始

事故の衝撃により負傷した場合、病院の受診をおすすめします。同乗者はもちろん、自分自身もしっかり受診することが大切です。ケガをしても病院を受診しなければ、保険金の請求はできません。

また「事故当時は目立った外傷が見られなかったが、数日後に不調を感じ慌てて病院を受診した」といったケースでは、事故との因果関係が曖昧になり保険金を請求できる可能性が低くなってしまいます。

5.必要書類を準備・保険申請

保険金申請に必要な書類を準備して保険金の請求を行います。

自損事故の場合、主に「診断書」や「事故証明書」といった書類が必要です。

使用する保険が「人身傷害保険」か「自損事故保険」かによっても必要書類が異なります。

保険会社の指示に従って書類を準備し、郵送しましょう。

人身傷害保険が適用となるか、自損事故保険が適用となるかは、保険契約の約款に基づき保険会社側が判断します。

人身傷害保険の補償範囲の方が広いものの、適用外の事故の場合は自損事故保険が重宝するでしょう。

保険会社によって補償内容が異なるため、対応も変わるかもしれません。

契約前には補償内容をしっかりと確認しましょう。

▶自動車事故を起こしてしまった時の請求手続きの流れについてはこちら

自損事故で保険を使ったら等級はどうなる?

一般的に自動車事故で保険を使うと等級が下がるため、翌年以降の保険料が高くなってしまいます。

自損事故であっても保険を使ったら等級に響くのでしょうか。

以下、具体的に見ていきましょう。

保険の種類 等級
人身傷害保険 ノーカウント事故
搭乗者傷害保険 ノーカウント事故
自損事故保険 3等級ダウン
車両保険 3等級ダウン

自損事故保険を使用すると、3等級下がります。

もし人身傷害が適用されず自損事故保険の補償の対象となった場合、軽症であれば保険を使わないのもひとつの手でしょう。

3等級ダウンになると等級ダウンに加え、3年間事故ありの等級が適用されるため、保険料が割高になる期間が長くなるといったデメリットが挙げられます。

人身傷害保険が使える自損事故であれば保険を使っても等級には響きませんので、積極的に補償を活用するのがおすすめです。

▶等級による保険料の決まり方・上げ方はこちら

まとめ:加入中の自動車保険の補償内容を確認しよう

自損事故保険は、一般的に任意の自動車保険契約に無料で自動付帯される保険です。

自損事故保険を使用するケースは多くないため、あまり重要視される補償ではありませんが、いざというときに備えて加入中の保険の補償内容を把握しておくことをおすすめします。

中には、人身傷害保険を契約しない場合に自動付帯されたり、自損事故保険を付帯するかどうかを選べたりといった保険商品も存在します。

場合によっては「入っていたつもりだったけど補償の対象になっていなかった」なんてことも考えられるかもしれません。

人任せにせず、自分自身で補償内容を確認し、自動車事故の“万が一”にしっかりと備えましょう。