運転者限定特約とは?デメリットや他人が運転するときの対処法を解説

自動車保険には、補償を充実させるためにさまざまな特約が用意されています。

通常、特約をつけるとその分保険料は増しますが、中には特約をつけることで保険料が抑えられるケースもあります。

その一つが「運転者限定特約」です。

しかし保険料が安くなるからといって、やみくもに付帯するのはNG。特約の内容を正しく理解した上で自分に合った補償を選ぶことが大切です。

今回は運転者限定特約の主な特徴やデメリット、他人が運転するときの対処法について解説します。

運転者限定特約とは?

運転者限定特約とは、保険契約者が指定した運転者に対してのみ補償を適用する特約をいいます。記名被保険者本人のみ、夫婦のみ、夫婦+子どものみなど、家族単位で補償範囲を設定できるケースが一般的です。

運転者によって運転の特徴や癖が異なるので、複数人に運転される車の事故リスクは、必然的に高くなってしまいます。

反対に「いつも決まった人しか運転しない」のであれば、その車の事故リスクは低くなるでしょう。

“保険契約中の車を運転する人は誰なのか”をあらかじめ決定し、契約時点で保険会社に告知することで、事故リスクの違いによる保険料の差分を設けています。

運転者限定特約の主な種類

運転者限定特約は主に「本人限定」「本人・配偶者限定」「家族限定」「限定なし」の4種類に分けられています。

まずはそれぞれの特徴を見ていきましょう。

本人限定特約

「本人限定特約」は、保険契約の記名被保険者のみに補償を限定する特約です。

車1台につき1名しか運転者がいない=補償の範囲が狭まるため、限定特約の中では最も保険料が抑えられる仕組みになっています。

割引率は保険会社によって異なりますが、およそ7~8%が目安です。

本人・配偶者(夫婦)限定特約

保険契約の記名被保険者とその配偶者の2名のみに補償を限定するのが「本人・配偶者(夫婦)限定特約」です。

この特約を付帯する場合、記名被保険者は夫または妻に設定する必要があります。

なお、保険会社によっては戸籍上の夫婦だけでなく、事実婚や内縁関係といったケースも補償の対象となる場合があります。該当する人は事前に保険会社に確認するとよいでしょう。

本人・配偶者限定の割引率は一般的に5~6%程度となっており、本人限定に次いで割引率の高い特約です。

家族限定特約

家族限定特約は2019年1月以降、大手の保険会社を中心に廃止され、2023年3月現在はダイレクト型の自動車保険を中心に取り扱われている特約です。

割引率は1%程度と高くはありませんが、限定特約を付帯しない場合に比べると保険料を抑えられるため、“家族”を補償範囲に含めたいときはこちらがおすすめです。

保険会社によって補償範囲が異なるものの、一般的には本人または配偶者に加え、同居中の親族や別居の未婚の子どもまでが補償の対象とされています。

家族限定特約を付帯したい場合は「誰が補償範囲に含まれるのか?」を保険会社ごとに確認することが大切です。

【家族限定特約の取扱いがある主な保険会社】

  • SBI損保
  • イーデザイン損保
  • 三井ダイレクト損保
  • ソニー損保
  • おとなの自動車保険

限定なし

保険会社ごとに用意された限定特約の条件に該当しない場合は「限定なし」の契約となります。この場合、保険料の割引は適用されません。

指定したい運転者の範囲によっては保険会社ごとに付帯可能な特約が異なるケースが発生するため、特に見直しの際には注意しましょう。

例:夫婦と別居中の未婚の子どもが運転する場合

保険会社A社B社
限定特約の種類本人限定、本人・配偶者限定、限定なしの3種類本人限定、本人・配偶者限定、家族限定、限定なしの4種類
該当する限定特約限定なし(割引なし)家族限定(割引あり)

「限定なし」のメリットは、別居中の既婚の子どもや友人・知人といった他人が運転した場合にも補償が受けられる点です。

「誰かに車を貸す機会が多い」という人は、補償範囲を設定しない方が安心かもしれません。

なお運転者の範囲の限定による割引以外にも、運転者の年齢条件や免許証の色に応じて保険料率に差が生じます。限定特約とあわせればさらに保険料を抑えられる可能性が高くなるため、ぜひ活用してください。

運転者限定特約の保険料シミュレーション

それではここで、運転者限定特約の付帯による保険料の違いをシミュレーションしてみましょう。

今回は損保ジャパンとソニー損保のネット見積もりを使用し、本人限定、本人・配偶者限定、家族限定、限定なしの3~4つの特約で検証していきます。

【共通条件】

  • 車名(型式):トヨタ  ヤリス (MXPA10)
  • 年齢:30歳
  • 等級:12等級
  • 免許証の色:ブルー
  • 走行距離:5,000km以下
  • 車両保険:なし
  • 使用目的:日常・レジャー使用

損保ジャパン(代理店型)

限定特約の種類保険料/年
本人限定47,340円
本人・配偶者限定48,000円
限定なし50,630円

ソニー損保(ダイレクト型)

限定特約の種類保険料/年
本人限定19,580円
本人・配偶者限定19,770円
家族限定20,920円
限定なし21,120円

※2023年3月現在、筆者調べ

運転者の範囲を限定しない場合と限定特約をつけるケースを比較すると、代理店型の損保ジャパンでは2,630円~3,290円の差が生じ、ソニー損保では200円~1,540円の差が生じています。いずれも「本人限定」が最も保険料を抑えられることが分かります。

ただし保険料だけに捉われすぎると十分な補償を備えられない可能性もあるため、各社の補償内容をしっかり把握した上で、自分に合った保険を選ぶことが大切です。

運転者限定特約のデメリットはある?

運転者の範囲を限定するだけで保険料が割引になるのは大きなメリットにも思えますが、実は補償範囲の限定はデメリットにもなり得ます。

厳密にいうと誰が運転しても保険会社によるペナルティは発生しません。しかし事故を起こしたのが、限定特約で指定した「本人または配偶者(または家族)」以外であった場合、任意保険の補償は受けられなくなります。

限定特約で指定した運転者以外の他人が運転する機会が少しでもある場合は、限定特約を外した方がよいでしょう。

「せっかく保険に入っていたのに補償が受けられなかった」といった事態に陥らないよう、補償の範囲を把握することが大切です。

他人が運転する場合、限定特約はつけられない?

一般的に限定特約で補償される“記名被保険者本人または配偶者”以外の他人も運転する機会が少しでもある場合、限定特約はつけられないのでしょうか?

状況に応じて工夫すれば、限定特約を付帯して保険料を抑えつつ、他人が運転するシーンの補償も備えることができます。

ポイントは「車を貸す相手に補償を用意してもらう」「自分で備える」の2つです。ここではそれぞれ2つずつ、計4つの対処法を解説します。

他者運転特約に加入してもらう

「他者運転特約」とは、他人の車を借りて運転中事故を起こした場合、自分が契約している自動車保険を使って補償が受けられる特約です。

つまり車を貸す相手が他者運転特約に加入していれば、こちらが補償を用意する必要はないため、自分の保険には限定特約をつけていても問題がありません。

注意したいのは、必ずしも相手が十分な補償を備えているわけではない点です。例えば相手が車両保険の契約をしていなければ、貸した車が損傷した場合に補償が受けられません。

相手が加入中の任意保険の補償内容を事前に確認しておくことで、トラブルを防げるでしょう。

単発の自動車保険に加入してもらう

1日自動車保険や時間単位保険など、他人に車を貸す間だけ単発の自動車保険に加入してもらうのも一つの手でしょう。

手続きが簡素化された保険も多く販売されており、ネットで申し込むと即座に補償が開始するなど、利便性が特徴です。

1,000円以下で備えられるコスパも魅力的ですが、安すぎる保険は十分な補償を受けられない可能性があるため注意しましょう。

【代表的な一日自動車保険】

一時的に限定特約を外す

限定特約は保険会社へ連絡するだけで簡単に付け外しができます。他人が運転するときだけ特約を「限定なし」に変更するのもよいでしょう。その場合は追加の保険料がかかるため、指定の方法で別途保険料を支払う必要があります。

懸念点は、保険会社によって適用日が異なることです。

変更後の補償は最短で翌日から適用とする保険会社もあるため、1日自動車保険のような即効性は必ずしも得られません。さらに限定特約を外したあと、日常に戻ったらすぐに限定特約の付帯手続きをしなければ、損をしてしまうといったデメリットも考えられます。

この方法は「別居中の子どもが一時的に帰省する」といったケースなど、車を貸す日が事前に分かっている場合、かつ一定期間継続する場合にのみ有効だといえるでしょう。

「家族限定特約」や共済の「子供特約」を活用する

たまに運転する“他人”というのが、子どもの場合。あらかじめ家族限定特約の取扱いがある保険会社を選ぶか、こくみん共済のマイカー共済の「子供特約」の割引を活用するのもよいでしょう。

前述の通り、子どもが帰省するときだけ限定特約の付け外しをするのもよいですが、手続きが煩雑になるのはデメリットかもしれません。

家族限定特約の割引率は1%程度と少ないのと、現時点では一部のダイレクト型自動車保険にしか取扱いがないのが弱点ですが、子どもや親族に車を貸す頻度を考慮しつつ、お得な契約を選択するとよいでしょう。

まとめ:運転者の範囲を限定して賢く保険料を抑えよう!

運転者の範囲を限定するだけで、保険料はぐっと抑えられます。

もしこれまで「誰かが運転することがあるかもしれないから……」と、なんとなく限定特約をつけてこなかった人は、ぜひ一度見直してみてはいかがでしょうか?

「本人限定」と「本人・配偶者限定」の2つの特約が割引率が高く、限定なしに比べて保険料を抑えることができます。

子どもや同居中の親族もまとめて補償範囲に含めたいときは、家族限定特約の取扱いがある保険会社の選択がおすすめです。現在はダイレクト型の自動車保険に取扱いが多いため、気になる人は見積もりをとってみましょう。